実家じまいや墓じまいという言葉を、頻繁に見聞きするようになりましたが、いざ始めようとしても、何から始めたらよいかわからない人も多いようです。本記事では、次の内容について解説します。
- 実家じまいとはどんな意味?
- 親世代が行う実家じまいの流れ
- 相続発生後に子どもが行う実家じまいの流れ
- 親と揉めずに資産状況を確認する方法
- 実家じまいにかかる期間と費用
- 認知症になると実家じまいはできない?
記事後半では、家じまいのタイミングで頭を悩ませがちな、墓じまいについて解説します。本記事を読めば、実家じまいの流れや、注意すべき点を把握できます。
実家じまいとは?
実家じまいという言葉はここ数年で見聞きすることが増えました。実家じまいの定義は正確に決まっていないませんが、このサイトでは次の様に定義して説明します。
- 実家の持主である親が終活の一環として行う実家じまい
- 相続発生後に子どもが主体となって行う実家じまい
上記2つのパターンの実家じまいについて当サイトでは解説しています。実家じまいは次のようなタイミングで行います。
- 親が子どもと同居することになった
- 親が老後の生活にあう住まいに引っ越した
- 親が高齢者施設に入った
- 親が亡くなった
当サイトでは実家じまいは単に実家を売却する事だけでなく、実家の物を片付けから手放すまでの一連の流れを実家じまいとしています。
実家じまいを親が元気なうちに行う方法
親が健在のうちに実家じまいを行う場合、おおまかに次の様な流れになります。
- 実家じまいに関する準備
- 実家の荷物の生前整理
- 住み替え
- 実家の処分
ここから親が健在のうちにする実家じまいの流れを順を追って説明します。
実家じまいをするための準備
実家じまいを行おうと思ったら、最初に準備を行いましょう。実家じまいをするためには、次の様な準備が必要です。
家族で話し合い
実家の持ち主である親と、その子どもなどの相続人で話し合いの機会を持ちます。
話し合いでは次のようなことについて話し合いをしていきましょう。
- 今後どういった生活をしていきたいのか
- 実家を引き継いで住みたい相続人がいるのか
- その暮らしを実現するためにどのような住まいが適切か
- どのタイミングで実家じまいを始めるのか
- 誰が中心となって実家じまいを進めていくのか
- 認知症の症状が出た際はどのように対応していくのか等
親が健在なうちに行う実家じまいは、「いかに親が安全に快適な老後の生活を送っていけるのか」が目的です。
親世代にとっては、長年住んだ実家を離れることは子ども世代が思うより精神的な負担がかかる場合も少なくありません。そのことを忘れてしまうと、強引に実家じまいをさせる結果となり、親子ともに良い結果を生まず実家じまいを後悔することにつながります。
目的は「親の幸せな老後」であることを念頭に進めていきましょう。
財産の把握
実家じまいを考えるタイミングは、実家の財産の把握をする良い機会になります。財産はプラスの財産はもちろん、マイナスの財産も含まれます。
子どもたちにとっては、相続後のこともありぜひとも知りたい内容ではありますが、親からするといったい何のために教える必要があるのか?と訝しげに感じることもあるでしょう。特にマイナスの財産は子どもには知られたくないと感じることは往々にしてあり得ます。
しかし、実家じまいをするのなら、今後の住まいを決めていく必要がありますし、その際には親の財産も大いに関係してきます。直接聞いても問題のない関係性であればスムーズですね。
しかし、そのような関係性ではない場合は、次に紹介するエンディングノートを利用するのも一つの手になります。
また不動産の境界についても、隣地との境界は確定しているのか、争いがないのか、口約束していることはあるか等、この機会に確認することをおすすめします。
エンディングノート等を活用
親と子であっても、直接何でも話せるわけでもないですよね。子どもとしては聞きづらいこともありますし、それは親も同じです。
エンディングノートや終活は高齢の方の間でも認知度が高いため、エンディングノートをプレゼントしてみてはいかがでしょうか。できれば、子ども自身もエンディングノートを作成し、見本として見せてあげるのも後押しとなります。
エンディングノートはどこかに提出するものでもないので、自由に書いてもらえますし、間違ってしまっても、埋められない箇所があっても大丈夫です。
ただし、物忘れが多い場合や、面倒を嫌うタイプの場合、小出しに口頭で質問をしていく方が良い場合もありますのでご注意を。
住み替え先の検討
親が健在のうちにする実家じまいは次の住居を決める必要があります。ここでもできる限り親の意向を汲めるように話し合いをしていきましょう。
利便性の良いコンパクトな間取りのマンションにダウンサイジングする、自立型の高齢者専用住宅に入居する、子どもと同居するなど様々な選択肢があります。
いずれにしても、住み替えには、経済的な負担もあるため、やはり資産状況の把握は不可欠です。 手元にある資産の把握に加え、実家がどの程度で売却可能なのかを把握することも忘れずに行いましょう。
実家の売却相場の把握方法はこちらの記事で詳しく説明しています。
税理士に相談
相続税が発生しそうな資産規模であることがわかれば、事前に相続税に強い税理士に相談をしましょう。税金の観点から実家売却のタイミング(生前・相続発生後)について、アドバイスを受けることができます。
\ 相続税に強い税理士を探す /
実家の荷物の生前整理の方法
実家じまいを行うためには、実家を空にする必要があります。長年住んだ実家には物が多いため、計画的に進めましょう。
住み替え先が決まらないタイミングでも、物を減らしていくために少しづつでも生前整理を行っていきます。生前整理は自力で行う方法と業者に依頼する方法がありますが、それぞれのメリット・デメリットを解説しましょう。
自力で片付ける
生前整理を自分たちだけで進めていく方法です。
- 費用があまりかからない
- じっくりと自分のペースで行える
- 時間がかかる
- 体力が消耗する
- 整理しきれず途中で挫折することがある
- 親子で喧嘩になることがある
業者に任せる
生前整理も業者に依頼することは可能です。
- 1~2日で完了する
- 体力的な負担がない
- 一気に片付けられるので気持ちの迷いが生じにくい
- 費用がかかる
- 業者選びが難しい
高齢の親のみで生前整理を行うことは、現実的には難しいでしょう。そのため、自力で行う場合には、積極的に手伝うことは必須です。
もしも遠方にいて手伝うことが不可能であれば、業者に依頼しましょう。整理作業中にケガをしてしまっては大変です。
住み替えを行う
住み替えのタイミングは資産状況や住み替え先によって変わります。実家の売却が決まるまで住み続けることも可能ですし、先に住み替え、その後に売却活動に入ることも可能です。
実家が長く売れず、経済的に厳しくなることが想定されることもあります。住み替えと実家売却の順序はよく検討しましょう。
実家の処分
実家じまいでは最終的に実家をそのまま売却するか、解体して土地として売却することになります。また事情があり実家を手放したくない場合には、賃貸にすることも可能です。
実家売却の方法
実家の売却は、次の2つの方法があります。
- 仲介で売却
- 買取で売却
どちらも実家を売ることに変わりはありませんが、特徴が異なります。それぞれのメリット・デメリットを確認しましょう。
仲介で売却
仲介とは不動産仲介会社を通して主に個人の買主を探してもらう売却方法です。売却する物件をインターネットや紙広告を使い、広く宣伝を行い買主を探します。
- 希望の売却価格で宣伝ができる
- 相場で売れる可能性が高い
- 売れるまでに時間がかかる可能性がある
- 契約不適合責任を負うリスクがある
買取で売却
買取とは、不動産買取業者に不動産を売却することです。業者向けの販売のため、一般に向けた宣伝活動を行う必要がなく、周りにわからず売却することができます。
- 現金化までが早い
- 一般では売れない物件も買取してもらえることがある
- 実家の片付けをせずに売れる場合もある
- 契約不適合責任を免責してもらえることが一般的
- 買取価格は相場の6~8割程度となる
- 買取してもらえないこともある
解体して土地として売却
築年数が古い実家の場合、建物を解体して更地として売却するパターンもあります。
- 新築を建てたい人も買主対象となる
- 特定空き家等に指定されるリスクがなくなる
- まとまった費用がかかる
- 建物がなくなることで固定資産税があがる
- 万が一売却に時間がかかると固定資産税の負担が大きい
更地にすることで、新たに新築を建てたい人が買主候補の対象となる一方税金面の負担が大きくなるため、自己判断で解体をすることなく不動産会社に相談して進めましょう。
認知症になったら実家じまいはできない?
高齢になった親に認知症の症状が現れた場合、通常の方法で実家を売却する事はできません。
もし仮に代理人が契約をしたところで、買主に名義を変える登記申請を行うことが出来ません。この場合には、「成年後見制度」を利用して不動産を売却することになります。
内閣府が発表した平成29年度高齢者白書によると、認知症は2025年には65歳以上の5.4人に1人がなると予測されています。親と共に行う実家じまいはタイミングも大変重要です。
成年後見制度とは
認知症や知的障害などの理由により、判断能力が十分でない場合、契約行為や財産の管理を行うことが難しい場合があります。詐欺や悪徳商法にも騙されてしまいますよね。
そういった不利益が起きないように、家庭裁判所によって選任された「成年後見人」が本人を法的に支援するのが成年後見制度です。
成年後見人は、身内の人がなることもできますが、家庭裁判所が決める事なので身内の人が必ずなれる保証はありません。身内の人が成年後見人にならない場合は、専門家(司法書士や弁護士)が選任されることが一般的です。
そうなると報酬も発生しますし、本人が亡くなるまで成年後見制度をやめることもできません。さらに居住用財産(実家など)の売却はたとえ成年後見人でも勝手に行うことはできず、家庭裁判所の許可が必要になるのです。
相続後にする実家じまいの方法
親が亡くなった後に行う実家じまいの流れは、おおまかに次の様な流れになります。
- 相続手続き
- 四十九日ごろに遺産整理
- 実家の処分
相続手続き
親が亡くなってしまった場合、最初に行うべきことは相続手続きです。
相続手続きはやるべきことも多く、期限の決まっているものも少なくないためまずは優先して行うこととなります。
相続手続きを行う中で、財産状況から相続放棄を検討することもあるでしょう。相続放棄は3ヵ月の期限があることに注意しましょう。
相続手続きがある程度落ち着いたタイミングで、実家の相続登記を行っておくと、実家売却の際にスムーズです。
実家じまいの際の遺産整理
実家にある荷物を整理するには、自力で行う方法と遺品整理業者や不用品回収業者に依頼する2つの方法があります。それぞれのメリット・デメリットを確認していきましょう。
自力で行う遺産整理
実家じまいをする場合、自力で遺品整理ができるのは実家が近い場所にある場合です。近場であれば集中的に遺品整理を行うことも可能なためです。
- 費用が実費以外はかからない
- 故人を忍びながら行える
- 体力的・精神的にダメージがある
- 時間がかかり、実家売却の機会損失が発生する
- 途中で挫折することもある
業者に依頼する遺品整理
実家が遠方の場合には、自力で行うことは現実的ではないというのが実際のところです。近場の実家の場合でも、精神的に辛いときには業者に依頼するのがベターです。
- 1~2日で完了する
- 体力的・精神的にラク
- 肩の荷が下りる
- 見つけられない貴重品を捜索してもらえる
- 費用がかかる
- 業者選びが難しい
- 悪徳業者が存在する
それぞれのメリット・デメリットを比較して最適な方法で荷物を片付けていきましょう。
実家じまいにかかる期間と費用
実家じまいにはどの程度の期間と費用がかかってくるのでしょう。それぞれ解説します。
実家じまいにかかる期間
実家じまいにかかる期間は実家の片付け~実家の売却までの期間です。実家売却にかかる期間は実家の立地や築年数、状態によってもかわります。まずはデータを確認してみましょう。
株式会社アンビシャスが2022年に実家じまい経験者100名にアンケートを行ったところ約7割が数ヶ月~1年未満、1年以上が2割弱、2年以上が1割弱との結果が出ています。いかに早く荷物の整理を終わらせ、売却活動に移れるかが鍵となりそうです。
実家じまいにの中で「実家の物の片付けが一番大変だった」と経験者が口を揃えています。
一番大変な物の整理を業者に依頼し、売却活動を早く始め売却ができれば、光熱費や固定資産税の負担も削減できますね。遺品整理の費用負担だけを考えるのではなく、トータルで考えることが大切です。
実家じまいにかかる費用
実家じまいには主に次のような費用がかかってきます。
- 実家の片付けにかかる実費(自力で片付ける場合)
- 遺品整理業者の費用(業者に依頼する場合)
- 相続登記費用
- 土地の測量・境界確定費用
- 建物解体費用(更地にする場合)
- 建物滅失費用(更知にする場合)
- 売買契約の際の印紙代
- 仲介手数料
- 引越し費用
実家じまいにかかる費用はこちらの記事で詳しく解説しています。
さらに、実家の売却をして利益が出た場合には譲渡所得税・住民税が課税されます。こちらは大きな金額になることもあるので要注意です。
実家の相続時に注意すべきこと
親が亡くなり相続をきっかけに実家じまいを行う場合には2つの注意すべき点があります。
相続放棄
亡くなった親が多額の借金などを残していた場合には、相続放棄を検討する必要があります。この相続放棄は相続をしたことを知ってから3ヵ月以内に手続きが必要になりますが、もうひとつ注意すべき点があります。
実家の片付けを行ってはマズいということです。実家のゴミの処理程度ならほぼ問題になりませんが、遺品を売却したり、遺品整理業者に依頼して費用を払ってしまったりすると、相続放棄が認められなくなるリスクがあります。
相続放棄をした、相続放棄を検討する場合には、実家の片付けを行わないように注意しましょう。
実家の分割方法
親の残した遺産が実家以外にない場合はトラブルか発生しやすいので、注意が必要です。
遺言書が残されていれば、遺言書に従いますが、問題は遺言書がない場合です。遺言書がない場合は、相続人全員で、遺産の分割をしますが、その際の実家の分割方法は4つあります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
- 共有分割
実家を売却する実家じまいでは、4つの分割方法のうち、2の換価分割で実家を分割することをおすすめします。
換価分割は、実家を売却し現金化した上で相続人間で現金を分割する方法で、不公平感が少ない方法です。不動産の分割方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
お墓じまいとは?
実家じまいをするタイミングで、お墓じまいを考える人も少なくないでしょう。墓じまいとお墓じまいとは、現在のお墓を解体し、墓石を撤去後、更地に戻し使用権を墓地の管理者に返すことです。
お墓に納骨されていたお骨は、自宅の庭に埋めたり、捨てたりすることは法律で禁じられていますので、あらたなお墓への引越(改葬)や、手元供養、散骨などを行います。
お墓じまいの流れ10ステップ
- 親族間出話し合い、お墓じまいの同意を得る
- お骨の新たな改葬先を決める(別のお墓・永代供養墓など)
- お墓の管理団体やお寺に改葬したい旨を申出る
- 石材店に見積りを依頼する(墓石の解体・移動・新たな墓石の発注)
- 元のお墓のある市区町村役場よりか「改葬許可申請書」を受取り、必要事項を記入する
- 新たなお墓の管理者と契約を交わし「受入証明書」や「墓地使用許可書」を受取る
- 元のお墓の管理者より「埋葬証明所(埋蔵証明所)」を受取る
- 新たなお墓のある市区町村役場に「受入証明所(墓地使用許可証)」と「埋葬証明所(埋蔵証明所)」を提示し「改葬許可証」をもらう
- 墓石の解体と撤去を行い更地にし、墓地の管理者に返還する
- 新たな墓地管理者に「改葬許可証」を提出し、新たなお墓にお骨を納骨する
お墓じまいの費用
お墓じまいにかかる費用は現在のお墓の大きさや、改葬先により大きく異なります。一般的な相場としては30~300万とされ、大きく幅があるものです。
お墓じまいにかかる費用の内訳は以下のとおりです。
- 墓の解体と撤去費用10~20万円/1㎡あたり
- 閉眼供養のお布施代:3~5万円
- 離檀料:3~20 万円(現在の墓地が寺院が管理する霊園にある場合)
- 改葬許可証300円~500円
- 改葬先別の費用
- 一般墓への改葬:100万~
- 永代供養への改葬:10万~
- 樹木葬への改葬:10万~
- 散骨:3万~
- 新たなお墓の開眼供養のお布施代3~5万円
上記の様にお墓じまいにはまとまった金額がかかります。さらに高額な離檀料を請求され、トラブルになる事例も発生しています。もし法外な離檀料を請求された場合には、弁護士に相談をしましょう。
実家じまいのよくある質問
最後に実家じまいについてのよくある質問に回答します。
Q田舎の実家は処分できるの?
物件ごとに立地も築年数も変わるため、一概には言えないものの値付けを間違えなければ、売却することは可能でしょう。田舎の実家じまいについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
Q実家じまいの際に仏壇はどうしたらいい?
実家じまいに際して、仏壇を移動することは可能です。きちんと供養を行ってから移動させます。自宅に仏壇がすでにある場合や、仏壇を引き継がない場合には閉眼供養(魂抜き)を行い仏壇を処分できます。実家じまいを行う際の仏壇の考え方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ
実家じまいはを行うタイミングは、大きくわけて2つ、親が健在の時にする実家じまいと、相続をきっかけとした実家じまいがあります。
特に親が健在の時にする実家じまいは、「安全で快適な老後の生活」が目的であることを念頭に置いて行うことが重要です。コミュニケーションを取り、親の意見を尊重しつつ、「お父さん、お母さんの安全のために行っていこうと思っている」ということを伝えていきましょう。
相続をきっかけとした実家じまいは、寂しさや悲しみからなかなか作業が進まないこともあるでしょう。しかし、いつまでも実家を空き家のままにしておくとあっという間に時間は過ぎ、自分の気力も体力も落ちていきます。実家が負動産となる前のタイミングで実家じまいを行えるようにしていくことが、自分のためにも大切です。