遺品整理は一体だれがおこなうのでしょう。一般的には相続人が遺品整理を行うものです。
そこで問題になるのが、相続放棄をした元相続人です。
「元」相続人は相続人ではないため遺品整理を行わない・行えないのが原則です。
「相続放棄したら誰が遺品整理をするの?」
「相続放棄したい。故人と同居していた場合、家財道具はどうしたらいい?」
「大家さんが賃貸借契約の解約を迫ってくる。無視して平気?」
「実際、相続放棄の手続き時にはどのていど調べられるのか?」
相続放棄は家庭裁判所も絡む法的な手続きのため、手続き自体は自分でできても、相続放棄前後の「やってはいけないこと」を知らずに行ってしまい、後で慌ててしまう人も少なくありません。
そこで本記事では相続放棄手続き経験のある元司法書士の筆者が、相続放棄の前後でやってはいけないこと、影響のない行為の具体例、遺品整理と相続放棄の関係を中心に解説します。
遺品整理とはそもそも何をすること?
遺品整理とは、亡くなった方の生前に所持していたもの、使用していたものを整理・処分し、故人の人生の区切りと遺族の気持ちに区切りをつけるために行うものです。
故人は既に亡くなっていることがわかっていても、遺品を処分すれば故人とのつながりが、なくなってしまうような気がして、なかなか遺品整理に踏み出せないことも少なくはありません。
遺品整理とは、ご供養の気持ちをもち故人の所有物を整理することで、遺族の気持ちの整理をしていくことなのです。
【重要】遺品整理の前の準備
遺品整理を行う前に、すべき準備が3つあります。
- 相続人確定と相続財産の調査
- 遺言の捜索
- 相続放棄の検討
遺品整理を開始する前準備として、上記を行うことが重要です。
というのも、遺品整理には、法的な期限がありませんが、相続放棄には法的な期限「相続開始を知ってから3カ月」があるためです。
相続放棄をするのであれば、遺品整理は行うことができないため、遺品整理を始める前に上記の3つを必ず行うようにしましょう。参照:民法第921条2号|e-GOV法令検索
遺品整理は誰がするべき?
誰が遺品整理を行うのかは、それぞれの相続パターンにより異なります。パターン別に誰が遺品整理を行うべきなのかを解説します。
【原則】遺品整理は相続人全員で行うのが基本
人が亡くなると、その瞬間に全ての遺産・遺品は法定相続人全員が、共有状態で相続することになります。
この状態で遺品整理を行う場合は、相続人全員で遺品整理を行うことが原則です。例えば、親が亡くなった場合には、子どもなどの相続人全員が遺品整理を行います。
相続人の一部が勝手に遺品を整理・処分してしまった場合、トラブルが起こることもあるため、相続人全員で遺品整理を行うことが現実的でない場合でも、相続人全員で遺品の確認し、「勝手に処分された」などのトラブルが発生しないようにしましょう。
遺言書がのこされていた場合
遺言書が遺されていた場合には、その内容に沿った形で遺品整理を行います。
注意点として、故人が自分で作成した遺言書(自筆証書遺言)が発見された場合には、封を開けずに家庭裁判所で検認をしてもらう必要があります。
検認前に封を開けてしまうと、過料(罰金)が科されるため注意してください。
すでに遺産分割協議が整っている
遺品整理を始める前に、遺産分割協議が整っている場合はその協議内容に沿って遺品整理を行います。
つまり、遺品整理を行う前に遺言書の捜索を行うことが大切です。
実家を引き継ぐ相続人が決まっている場合には、同時に家財一式を相続することが一般的ですので、その相続人が遺品整理を行います。
トラブルを避けるためには、遺産分割協議書に「家財道具一式を相続する」旨入れておくと安心でしょう。
相続放棄をした元相続人がいる場合
相続放棄をした元相続人は遺品整理を行うことができないため、次順位の相続人が遺品整理を行うことになります。
また、相続放棄をする予定の相続人も遺品整理には手をださずにおくのが賢明です。
いざ相続放棄を行おうと思っても、遺品整理をしてしまったばっかりに、相続放棄が認められなくなる可能性があるためです。
相続人で遺品整理を行えない場合には
遺品整理を行うべき相続人が、親元を離れ生活している場合、遠方の実家の遺品整理は困難です。
どれほど時間があっても終わりがみえず、最悪そのまま放置されてしまうことにもなり兼ねません。
遠方の実家の遺品整理は、遺品整理業者にお任せするのがベストです。
遺品整理を行う時期
遺品整理を行う時期に法的な決まりはありません。
一般的には、親族が集まり遺品整理の相談もできる四十九日を目途におこなうことが多いでしょう。
ただし、故人が賃貸住宅に住んでいた場合には、家賃が発生し続けてしまうためなるべく早いタイミングで遺品整理を行う必要があります。
遺品整理をすると相続放棄が認められない?
先に触れましたが、相続放棄をする予定、相続放棄をした方は基本的に遺品整理は行わないことが賢明です。
遺品整理を行ってしまえば、相続放棄を認められなくなる可能性が高く、また既に相続放棄が受理されている場合にも、相続放棄が無効になる可能性があるためです。
相続放棄が認められなくなる可能性は、次の2つの行為を行った場合です。
①相続放棄前に相続財産の処分行為をする
②相続放棄後に相続財産の隠匿・私にこれを消費するなど背信的な行為があった場合。ただし、次順位の相続人が相続を承認したあとに行われた背信的行為は、法定単純承認とは認められず次順位の相続人がそのまま相続人となります。
それぞれ詳しく解説します。
相続放棄前に相続財産の処分行為をした場合
相続財産の処分行為とは、相続財産を売ったり、贈与したりすることや、相続財産である実家など家屋を取り壊すこと(解体)や、高価な美術品や骨董品の損壊も処分にあたります。
また、たとえ形見分けであっても、高価な相続財産の形見分けは、処分に該当しますし、逆に財産的価値のないものであれば処分行為に該当しないと考えられます。
また相続財産である現金から、葬儀費用、墓石、仏壇費用を支払った場合は、不相当なものでなければ処分行為に該当されないとされた事例もありますし、故人の自宅内にある賞味期限切れの食料品を処分することや、現状維持を目的とした建物の修繕は処分行為にあたりません。
相続財産の隠匿・消費とは?
相続財産の隠匿とは、相続財産の全部または一部についてその所在を不明にする行為のことをさします。
相続財産を隠してしまえば、故人にお金をかしていた債権者などは困ってしまいますので、そのような債権者を保護するための規定です。
具体的な事例を紹介しましょう。
借金を残し亡くなった故人の相続人である母親が、相続放棄を行ったのちに娘の遺品のほぼ全てを自宅に持ち帰った行為。
これが形見分けの範疇をこえ、相続財産の「隠匿」にあたるとされた裁判例があります。(東京地裁平成12年3月21日)
形見分けであっても、ケースによっては相続放棄が認められなくなるのです。
続いて相続財産の「消費」ですが、ほしいままに相続財産を処分し原形の価値を失わせる行為を私に消費(ひそかに消費)といいます。
これは、限定承認という特別な相続の方法をとる場合に問題になる行為で、「悪意で相続財産目録に、相続財産を記載しなかった」ことをさします。
相続放棄においては、たとえ相続財産目録に遺産を記載しなかったとしても、相続放棄が認められなくなることはありません。
相続財産の保存行為とは?
相続財産の保存行為とは、相続財産の価値を維持するために行う行為をさします。
先に挙げた、故人の自宅内にある賞味期限切れの食料品を処分することや、現状維持を目的とした建物の修繕が保存行為です。
保存行為を行っても、相続放棄が認められなくなることはありません。
処分行為と保存行為の線引きはむずかしい
以上、相続放棄が認められなくなる(または無効になる)処分行為と、相続放棄には影響しない保存行為について解説しました。
ですが、この処分行為と保存行為の線引きは専門家でも判断に迷うことがあるほど線引きが難しく、一般の方が自分で判断するとなれば、なおさらです。
次の章からは、相続放棄が認められなくなる具体的な例を紹介します。
しかし、確実に相続放棄をしたいのであれば、自己判断で行動せずに、弁護士や司法書士などの専門家に相談をすることが大切なことをお伝えしておきます。
相続放棄の前にやってはいけないことの具体例
ここからは、具体的に相続放棄前に行うと、相続放棄が認められなくなるケースを紹介します。
- 建物の解体(相続財産である実家の解体)
- 実家の売却
- 賃貸借契約の解約
- 敷金の受領
- 故人の遺品整理
- 預貯金の引き出し
- 携帯電話の解約
- 故人の借金の返済
- 遺産分割協議
- 入院費の支払い
- 車の処分
それぞれ詳しく解説します。
建物の解体(相続財産である実家の解体)
相続財産である建物の解体は行えません。
相続放棄をすれば、もともと相続人でないとみなされます。つまり相続財産にあたる建物に対して、相続放棄者はなんの権利も義務も持っていないのです。
他人の家を解体したらまずいですよね?
逆に解体を行えば、相続を承認したものとされ、相続放棄は認められなくなります。
ただし、割れた窓ガラスを補修するなど現状維持のために行う行為は保存行為に該当するため、相続放棄前に行っても問題にはなりません。
なお、相続放棄をした元相続人が負う建物の管理責任についてしばしば話題になります。2023年4月より新しい民法が施行され変更点がありますので、こちらの記事で忘れずに確認してください。
実家の売却
相続財産である実家を売却する行為は処分行為にあたります。
相続放棄者は相続財産の実家に関してなんの権利も持ちません。そのため、実家の売却はできません。
仮に実家の売却を行ってしまった場合は、相続放棄が認められなくなります。また固定資産税に関しても、相続放棄者は、納税する必要はありません。
賃貸契約の解約(マンション・アパート)
故人が賃貸住宅に住んでいた場合、管理会社やオーナーから部屋の引渡を求められるでしょう。
賃貸契約の解約が保存行為と判断されるケースもありますが、その判断はケースバイケースであるため、基本的には解約は行わない方がよいです。
賃貸借契約の解約を行ってしまうと「賃借権」という相続財産を相続人として処分したと見られてしまう可能性があるため、相続放棄が認められなくなってしまう恐れがあります。
管理会社やオーナーに解約を迫られた場合には、相続放棄の検討中であることを伝えましょう。できれば専門家に相談し、速やかに相続放棄手続きを行うことが大切です。
敷金の受領
賃貸借契約の敷金等を受領する行為も、第三者からすると相続を承認したと判断される行為であるため、相続放棄がみとめられなくなります。
敷金を返金される旨連絡があっても、相続放棄をしている旨(今後する旨)を伝え、受領しないようにしましょう。
故人の借りていた部屋の遺品整理
相続放棄を検討している場合は、遺品整理には手を付けないようにしましょう。
遺品整理を行うと、当然相続をする意思があるとみなされる可能性があるためです。ただし、財産的価値のないものの形見分けや、明らかなごみの処分は可能です。
判断に迷うことも多いシーンのため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
預貯金の引出し
故人の預貯金には手を付けないのが賢明です。厳密にいえば、預貯金の引き出しまではセーフであり、その引き出した預金を消費してしまえば相続放棄は認められません。
不要な預貯金の引き出しは、後に相続放棄無効の裁判を起こされる原因になりえるため、行わないようにしましょう。
ただし、以下の2つにおいては預貯金を引き出し消費したとしても、相続放棄は認められます。
- 葬儀費用として支払った
- 仏壇・墓石を購入した
ただし、過度に高額な葬儀費用や仏壇、墓石は必要不可欠なものの範囲を超えてしまう可能性があり、最悪、相続放棄がみとめられなくなる恐れもあります。
故人の社会的な立場、身分にふさわしい規模で必要不可欠と認められる範囲で支払う必要があります。
また必ず領収書を保管し、遺産が何に使用されたのかがわかるようにしておきましょう。
携帯電話の解約
携帯電話は解約をしなければ、基本使用料がかさんでしまうため、解約をした方が良いと考える方も多いかもしれません。
しかし、回線契約が相続の対象となることから、解約を行うと相続財産の処分にあたると判断され、相続放棄ができなくなる可能性があります。
別の見方としては、相続債務(マイナスの遺産)の増加を防ぐという行為であるため、保存行為になるとする見解もあります。
しかし、明確な裁判例がないため、念のため相続放棄の手続き前の携帯電話の解約は避けるのが賢明です。
故人の借金の返済
すでに弁済期(支払い期限)が到来している借金の支払いは、相続財産の保存行為であるとする見方がある一方で、相続財産の処分行為にあたるとする見方もあります。
そのため、支払いを避けられない事情がある場合には、相続財産から支払うのではなく、ご自身の資産から支払いを行うようにしましょう。
遺産分割協議
相続人間で遺産をどのように分けるかを話し合うのが遺産分割協議です。
相続放棄は、もともと相続人でなかったものとみなす制度のため、遺産分割協議には参加しません。参加してしまえば、相続人であることを自ら認めてしまう事になり、相続放棄が認められなくなります。
入院費の支払い
入院費用はお世話になった病院から請求されるため、反射的に支払いをしてしまう人もいます。
しかし、相続放棄をするのであれば、入院費用も支払う必要はありません。
心情的にどうしても支払いをしたい場合には、自身の資産から支払いをしましょう。
また次の2つのケースに該当する場合には、入院費の支払いをする必要があるため注意しましょう。
保証人である場合
一般的に入院をする際、病院より「身元保証人」を求められますが、この身元保証人は患者本人が入院費用を支払うことができない場合に、本人に代わり入院費用を支払う義務があります。
この身元保証人として義務としての入院費費用の支払い義務は、相続放棄をしてもなくなりません。
そのため、故人が入院した際の身元保証人になっていた場合には、ご自身の資産のなかから入院費用を支払います。
配偶者の場合
配偶者には「日常家事債務」の連帯責任というものがあります。
夫婦の一方が「日常の家事」に関して負担する債務は、その配偶者も連帯して責任を負うものと定められているのです。
そのため、亡くなった方が配偶者であれば、仮に相続放棄をしても、日常家事債務の連帯責任として入院費用を支払う義務があると考えられています。
ただし、相場より高い入院費の請求に関しては、日常家事債務の範囲外として支払いを拒否できる可能性もあるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
車の処分
故人が車を所持していた場合には、まず車検証を確認してみましょう。車の名義人が故人であれば車は相続財産に該当しますが、ディーラー名義やリース会社名義になっていることもあります。
故人の名義でなかった場合には、名義人に連絡をとり、車の引き取りを依頼します。
車が故人名義である場合は、相続財産になるため、相続放棄を検討する場合処分をすることはできませんし、そのままご自身で乗ることもできません。
例外として「資産価値がない車」は処分可能と考えられています。
資産価値の判断は、複数の中古車販売店より査定をもらい判断します。
ただし、第三者から見れば処分行為に他ならないため、車処分の際は専門家に相談しながら進め、トラブルを避けるようにするのが無難です。
相続放棄に影響がないものの具体例
相続放棄前後に行っても、影響がないものの具体例を紹介します。
- 葬儀費用の支払い
- 墓石の購入
- 仏壇の購入
- ごみ処分
- 財産的価値のないものの形見分け
順に説明します。
葬儀費用の支払い
故人の生前の社会的な地位に相当と判断される葬儀費用は、相続財産から支払いを行っても相続放棄の手続きは可能です。
ただし、遺産が何に支払われたのかを明確にするために、葬儀費用の領収書や請求書等は必ず保管をしておきましょう。
どの程度の費用なら社会的な地位に相当するのか判断がつかず不安な場合には、弁護士や司法書士に事前に相談をしましょう。
また、香典に関しては、喪主や遺族に対する贈与であると考えられるため、相続放棄をするから受け取ってはいけないというものではありません。香典から葬儀費用を支払った場合にも、問題なく相続放棄の手続きは可能です。
墓石・仏壇の購入
過去の裁判例から見れば、身分相応の墓石や仏壇の購入は、葬儀代同様に相続放棄には影響しないものと考えられています。
ただし、仏壇や墓石の価格は価格幅が大きく、どの程度なが適切な価格であるのか判断に迷ってしまうことでしょう。
相続放棄を検討している場合には、慎重に購入する必要があります。また購入時の領収書はかならず保管をしておきましょう。
ゴミ処分
明らかにごみと分かるものを処分することは、相続財産の処分には該当しないため、相続放棄の手続きは可能です。
具体的には以下のようなごみの処分は、保存行為に該当するため問題なく相続放棄ができます。
- 部屋の掃除
- 生ごみ等の処分
- 冷蔵庫内の食品の処分
- 庭の草木の処分
財産的価値のないものの形見分け
財産的な価値のないものの形見分けも、相続放棄に影響はありません。
具体的には、写真や手紙、遺族には思い入れがあっても市場では財産的価値がないものであれば問題はありません。
逆に遺族にとっては価値がないように見えても、コレクター商品など市場に出せば価値があるものの形見分けはできません。
相続放棄後の背信的行為
相続放棄後においても、相続財産を消費してしまえば、せっかく認められた相続放棄が無効になります。
消費とは、法律上の処分行為(相続財産を売ってしまう等)だけでなく、事実上の処分行為(相続財産を破壊する・建物を解体する等)も背信的行為に該当するので注意が必要です。
【賃貸】相続放棄した場合の遺品整理
次によく相談のある、故人が賃貸に住んでいた場合の遺品整理と物件の大家さん、管理会社とのやり取りについて解説します。
相続放棄をするなら賃貸の部屋の遺品整理はNG
相続放棄をしようと考えている場合、故人の生前の居所が持家であっても、賃貸であっても基本的に遺品整理には手をつけません。
しかし、賃貸の場合、現実的には物件の大家さんや管理会社から残置物の撤去等を求められることは少なくありません。
このような場合に言われるがまま遺品整理を行ってしまうのはNGです。
遺品整理を行い、解約手続きをすれば相続放棄が認められなくなる可能性が高いです。
対処法は「相続放棄を検討中である旨」を伝え、相続放棄の期限に間に合うように相続放棄手続きを進めていきます。
この間にも、家賃は発生し続けますが、相続放棄が認められれば滞納家賃を支払う義務も免れるので、安心してください。ただし、次の例外があるので注意をしましょう。
保証人になっている場合
入院費用のところでも保証人の話をしましたが、ここでも同様のことがいえます。
故人が賃貸借契約を結んだ際に相続人が保証人となっているケースがあります。この場合は、保証人としての家賃支払いの義務があります。
大家さんからの連絡は無視して大丈夫?
大家さんからの連絡を受けることは、相続放棄に影響はありません。適切に対応をしましょう。
すでに相続放棄の手続きを済ませている場合は、相続放棄の申述受理証明を提示しましょう。
これから相続放棄の手続きを行う場合には、司法書士や弁護士に相続放棄の手続きを任せれば、大家さんへの対応も一緒に任せることも可能です。
【賃貸】故人と同居していた場合の遺品整理と相続放棄
故人が賃貸借契約をしていたアパートやマンションに同居していた場合はどうなるでしょうか。故人と同居していた相続人が相続放棄を検討する場合の注意点を解説します。
同居していた故人の遺品整理
通常の相続放棄と同様に、銀行の預貯金の引出し消費したり、資産価値のある遺品を処分した場合には相続財産の処分行為を行った物として相続放棄ができなくなってしまいます。
また賃貸借契約の解約や、未払賃料の支払いは相続放棄をするなら応じる必要がありません。
しかし亡くなった方が、配偶者であった場合は、「日常家事債務」の連帯責任として、公共料金の支払い義務を負うことになります。
引越しをする場合
故人と同居していたが他の場所へ引越しをする場合
故人名義で借りていた賃貸物件より引越しをする場合には、賃貸借契約の解約はできません。
解約をしてしまえば、相続した賃借権を解約した形になるため相続放棄が認められない可能性が高まります。
また遺産から未払賃料を支払うことも同様に、相続放棄が認められない可能性があるため、もし未払賃料の支払いをするのであれば、ご自身の資産から支払うようにしましょう。
まとめると以下になります。
- 未払賃料や退去時の原状回復費用を支払う場合は、ご自身の資産から支払うこと
- 敷金や火災保険金の払戻金がある場合でも、受取らない
敷金や火災保険金の解約による払戻金は本来契約者であって故人のもの、つまり相続財産になります。
そのため、受け取ってしまえば相続放棄が認められなくなる可能性が高いです。
そのまま住み続けたい場合
賃借権は相続財産に含まれることから、賃貸物件にそのまま住み続けることは相続したものとみなされます。
相続放棄をしつつ、そのまま同じ賃貸物件に住み続けるためには、次の方法が考えられます。
- 大家さんより一方的に賃貸借契約の解除をしてもらう
- ご自身の名義で新たに賃貸借契約を結ぶ
この際、故人が契約時に預けていた敷金を受け取ること、そのまま自分の契約に流用することは、単純承認とみなされますので、注意してください。
相続放棄をしても相続財産の保存責任が残るケース
相続放棄が無事に認められても、「現に占有」している相続財産に関しては、他の相続人や相続財産精算人に引き渡すまで、保存責任を負うことになります。
逆の見方をすれば、現に占有していない相続財産の保存責任を負うことはないということです。
具体的にいうと、なくなった親名義の実家に住んでいた場合、親が亡くなりご自身が相続放棄をした場合でも、実家の保存責任を負うため注意しましょう。
遺品整理と相続放棄についてのよくある質問
最後に相続放棄に関するよくある質問に回答します。
- 相続放棄をしたが、遠方の実家の保存責任はありますか?
-
2023年4月より、民法改正によって新しい民法が施行され、現に占有していない相続放棄者は保存責任を負わないことが明文化されました。そのため、占有をしていない遠方の実家の保存責任はないものと考えられます。
- 同居の配偶者が亡くなった場合、公共料金は自分のお金で払うのですか?
-
同居の配偶者がなくなった場合、亡くなった配偶者名義で契約してた公共料金の支払いに関しては「日常家事債務」の連帯責任があるため、支払い義務があります。この場合は、自分の債務としてい支払い義務を負うため、ご自身の資産から支払いをすることになります。
- 故人と同居していたが、相続放棄をした後は家財道具などをそのまま使用しても良いか
-
よほど高額な家財道具を非相続が購入したのではない限り、相続財産とみなされずそのまま仕様を続けても大丈夫です。ただし、家財道具を売却する行為は避けた方が無難です。
- 実際に相続放棄の手続きではどの程度、実態を調べられるのか?
-
実務上は、相続放棄の要件を満たしているかという形式的な調査にとどまり「相続財産の処分」の有無などを積極的に調査する可能性は低いといえます。
相続放棄の申述の受理は,家庭裁判所が後見的立場から行う交渉的性質を有する準裁判行為であって,申述を受理したとしても,相続放棄が有効であることを確定するものではない。相続放棄等の効力は,後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。
したがって,家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するにあたって、その要件を厳格に審理し,要件を満たすもののみを受理し,要件を欠くと判断するものを却下するのは相当でない。
もっとも,相続放棄の要件を欠くことが明らかな場合まで申述を受理するのは,かえって紛争を招くことになって妥当でないが,明らかに要件を欠くとは認められない場合には,これを受理するのが相当である。
【参考】大阪高決H14.7.3ただし、相続放棄は受理されればそれで確定するわけではなく、債権者などから相続放棄無効を主張される可能性もあるため、適切に相続放棄を行う必要があります。
まとめ
本記事では、遺品整理と相続放棄について解説しました。
遺品整理をはじめる前の準備として行うべきことは3つありました。
- 相続人確定と相続財産の調査
- 遺言の捜索
- 相続放棄の検討
相続放棄を検討している相続人は、相続放棄が認められなくなるような行為をしないことが大切です。
相続放棄が認められなくなる具体例は次の行為でした。
- 建物の解体(相続財産である実家の解体)
- 実家の売却
- 賃貸借契約の解約
- 敷金の受領
- 故人の遺品整理
- 預貯金の引き出しと消費
- 携帯電話の解約
- 相続財産での故人の借金の返済
- 遺産分割協議
- 入院費の支払い
- 車の処分(車の経済的価値による)
- 相続放棄後の背信的行為
適切な相続放棄を行わなければ、せっかく相続放棄が認められた後に、借金の債権者などに相続放棄が無効であることを主張され、裁判になってしまうこともあります。
判断に迷う場合には、専門家に相談することをおすすめします。