親の家を相続したくない人が年々増えてきています。今は核家族化が進んだことから、実家を出て自分の家を持つ人も多く、今後も実家に住む予定がないので「親の家はいらない」という人も多いのですね。しかし、実家だけを相続放棄することはできるのでしょうか?本記事では、親の家はいらないと感じている人に次のことを解説します。
- 親の家を相続したくない理由とその対処法
- 相続放棄のメリットとデメリット
- 新たにスタートする相続土地国庫帰属制度とは?
- 実家を早く面倒なく手放す方法
また、相続放棄の件数も、年々増えています。もしも、相続放棄をしたら、実家は最終的にどうなってしまうのでしょうか。さらに、相続放棄をしても管理責任が残ると聞き心配な人に向けて、改正民法による新しい情報も解説しました。親の家どうしよう!を解決するヒント、どうぞお役立てください。
親の家を相続したくない人が多い理由
空き家が社会問題化され、ニュースや本で取り上げられることも増えてきました。そのためでしょうか、「親の家を相続したくない」「住まない実家は相続してはいけない」という風潮がみられますね。具体的には次のような理由で親の家を相続したくない人が増えています。
- 田舎の実家は売れないから
- 実家の維持管理の問題
- 近所トラブルが面倒だから
- 事件や事故のトラブル回避
- 子どもの代まで引き継ぐのを避けたい
- 相続税・固定資産税の負担
- 建物解体の費用負担
田舎実家は売れないから
実家が田舎にある場合は、どうせ売っても売れないからという理由で実家の相続をしたくないと考える人が多いようです。確かに人口の多い都市部に比べると地方の不動産は売れにくいのは事実でしょう。
でも、もしかしたら思い込みかもしれません。田舎の実家が売れるか疑問な人はこちらの記事もご覧ください。
実家の維持管理の問題
空き家になる実家に住む予定がない場合には、空き家を維持・管理していく必要があります。松本明子さんの著書では空き家の実家の管理に1,800万円費やしたとして話題になりました。そこまでではないとしても、住まない実家にお金や労力をかけたくないという人は多いのでしょう。
実家の近所トラブルが面倒だから
空き家になった実家の管理を怠った結果、近隣の人からクレームが入ることがあります。
例えば、庭木の枝が隣の家の敷地を越境する、ゴミが不法に捨てられ放火の危険がある等、起こっていない被害に対してもクレームが入ることもあるでしょう。確かに、考えただけでも面倒に思えますね。
事故や事件のトラブル回避
この記事を書きながら、「空き家 事故」で検索すると、ここ1週間の間でも数件の空き家の火事のニュースが見つかりました。冬には雪国での空き家の屋根の崩落のニュースもありました。例えば雪の重みで空き家の屋根が崩落、けが人が出てしまえば、所有者(実家を相続した人)が損害賠償請求を受けることになるでしょう。
子どもの代まで引き継ぐのを避けたい
いずれ自分も年老いて亡くなる日がきます。その時に、親から引き継いだ実家は、自分の子どもの代に引き継がれることになります。
今後さらに空き家は増え、人口は減っていくことは間違いないため、空き家に関する条例の制定や法改正が行われていくでしょう。このような背景もあり、自分の代で空き家所有の負担を無くしたいと考える人は少なくありません。
固定資産税の負担
不動産を所有する限り、固定資産税の負担は続きます。例え田舎の実家の固定資産税が高額でなくとも、塵も積もれば山となります。さらに、もし特定空き家に指定されてしまうと、住宅用地の特例がはずされ、固定資産税(都市計画税がかかる地域は都市計画税も)があがることになります。
いくら実家を手放すのが寂しいと思っても、年間に安くない固定資産税を払うとなれば、実家を引き継ぎたくないと考える人も多いでしょう。
建物解体の費用負担
建物が老朽化し、いよいよ取り壊しが必要になった場合には、解体費用がかかります。解体費用は30坪の木造の戸建で、100〜150万円程度が相場です。まとまった額の負担になるため、そんな費用がかかるのなら実家は相続したくないと考える人もいるでしょう。
実家の解体費用についてはこちらの記事をご覧ください。
実家を相続したくない理由の結論
実家を相続したくない人が多い理由を解説しました。全ての理由を見てみると、実家を手放せず保持した場合に発生するリスクによって相続したくないと考えていることがわかります。つまり、保持せず手放せれば良いということになります。実家が売れなそうという理由で相続したくない人もいますが、まずは本当に売れないのかを確かめてみることが必要でしょう。
親の家を保持したくない場合の対処法
実家を保持しなくても良い方法を解説します。
- 相続してすぐ売却する
- 親が生きている内に売却する
- 他の相続人に相続してもらう
- 相続放棄する
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
①相続して売却する
空き家になる実家を保有していると、先述したようなリスクが発生する可能性があります。そこで、実家は相続するけれど、なるべく早く手放すことに焦点を当てた対処法を紹介します。
それは買取です。買取とは、実家を個人に売るのではなく、買取専門の不動産買取業者に実家を売却する方法です。
早期売却なら買取一択
実家を早く手放したいなら買取一択といってよいでしょう。買取はなんといっても早くて楽です。早期売却と売却後のトラブル回避に焦点をあてるのであれば、買取をいちばんにおすすめします。なぜ買取をおすすめするのか、そのメリットを解説します。
買取のメリット
①圧倒的に売却期間が短い
買取の場合、買取業者に訪問査定をしてもらい、買取の可否を判断されます。買取可能となれば、契約・引渡しまではスピーディーです。買取業者が現地を訪問してする訪問査定の場合、査定額=確定買取額のためいくらで売れるかがすぐにわかるのもメリットです。
②実家の片付けをしなくても良いケースがある
実家を売却する時にネックになるのは、実家の片付けです。片付けに時間がかかり、売却スタートが遅くなるケースもあります。しかし、買取の場合、買取業者によっては、この片付けもせずに買取をしてくれることも。もちろんその分買取価格は低くなりますが、何もしなくて良いのはかなり嬉しいですね。
③現金化も早い
買主が不動産業者のため、ローンを使わず現金で買取るケースも少なくありません。またローンを使う場合でも1ヶ月程度で実家の引渡し(現金化)は可能なことが多いでしょう。
④個人には売れない実家にも可能性がある
建替えのできない再建築不可の実家や、市街化調整区域にある実家は、なかなか個人は買いにくいです。というのも、買主がローンを組みたくても金融機関がOKを出さないケースが多いためです。
その点、買取業者は再建築不可物件や市街化調整区域の物件でも買取を行うケースもあります。中にはそういった不動産を専門で買い取る会社も存在します。
⑤契約不適合責任を免責にしてもらえる
契約不適合責任をざっくり言うと、契約書に記載されていない不具合が合った場合には、売主が責任をとるというものです。
例えば、売却した後に雨漏りが発覚した、シロアリ被害がある等の場合に、契約内容にその点を触れていなければ売主が修繕をしたり、減額をしたりしなくてはなりません。中古の物件、特に築年数の経っている実家は気付かぬ不具合が発生している可能性も高いでしょう。
そして実家を相続したくないのは経済的負担と面倒を避けたいからではないでしょうか。売った後に予期せぬ出費と手間がかかるのは避けたいですよね。この点、買取ならこの契約不適合責任を免責にしてもらえることが多く、これこそおすすめしたい理由のひとつです。
買取のデメリット
買取のデメリットは相場より安く買取られることです。
①相場より買取価格は安い
買取の場合、相場の6〜8割程度の買取価格になりうることがデメリットです。しかし、早く手放すこと、売却後の面倒を避けることに焦点をあてると、価格が安くとも売り切ってしまう選択肢はありでしょう。
②買取してもらえない不動産もある
買取業者は買い取った不動産をリフォームやリノベーションを施し、再販します。そのため、利益の出そうもない不動産や買い手が現れないことが予想される不動産は買取ができません。
おすすめの買取業者
最短3日で買取現金化が可能な買取業者。全国の物件に対応、さらに再建築不可物件や市街化調整区域物件、事故物件の買取も。契約不適合責任も免責にしてもらえます。Googleのクチコミも良い!
事故物件やゴミ屋敷の買取を行う買取業者。全国の物件に対応、契約不適合責任免責。遺品整理や実家の片付けも任せることが可能です。
②親が健在のうちに売却してもらう
親が健在のうちに実家を売却できればそもそも相続しなくて済みます。また生前に売却してもらうことで、後の相続トラブルや境界のトラブルも避けることができるでしょう。
ただし、親が今の家から引っ越したくない場合には、無理矢理引っ越しをしてもらうのは現実的ではありません。高齢者は慣れない環境に引っ越した場合、周囲との接点が構築できず、鬱っぽくなってしまったり、認知症のリスクが上がるといった話もききます。
双方が同居を希望している場合や、親が便利な高齢者施設に入りたいと希望している場合には実家売却のサポートをしましょう。
③他の相続人に実家は相続してもらう
相続が発生した後に、他の相続人がいる場合、その人が実家を相続してくれるのであれば、自分は実家を相続せずにすみます。
相続が発生する前の段階で、今後実家をどうしていくのかを親をふくめ話し合う機会を持つことが重要です。もしかしたら、相続人の中には実家を継ぎたいと思っている人がいるかもしれません。
注意点としては、他の相続人と共有で実家を相続することは可能な限り避けましょう。相続後すぐに実家を売却する場合でも、いざ売ろうとしたときに共有者が急に意見を変える可能性もあります。実家の売却は、共有者全員の同意が必要な上、手続きも共有者全員が行う必要があるのです。
共有にしたばっかりに、後々トラブルになる可能性があがりますので、共有は避けるということを覚えておいてください。
④相続放棄をする
亡くなった親に借金があり、預貯金や不動産だけではマイナスをカバーできない場合は、相続放棄を検討します。
相続放棄は相続があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続き(申述)を行う必要があります。人が亡くなった後の3ヶ月は時間があるようで、やることが多いため、あっという間です。
また生前に親の財産や借金を把握していない場合は、相続財産の調査、特に借金の調査をすることは難しいでしょう。必要であればこの3ヶ月の期間を延ばす手続きも可能です。司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
相続放棄のメリット
- 借金を相続しないため、返済義務は負わない
- 相続放棄の時点で実家を占有していなければ、法律上責任を負わない
- 気持ちがスッキリする
相続放棄のデメリット
- 実家だけの相続放棄はできず、全ての遺産を放棄することになる
- 他に相続人がおらず、実家を占有している場合には、相続放棄をしても実家の保存責任、占有者としての責任、管理者としての責任は続く→責任から逃れるためには相続財産管理人の選任が必要
=予納金が20~100万円程度かかる - 一度放棄をすると撤回ができない
- 他の相続人、親族を巻き込むことになる可能性がある
- 物によっては形見分けもできない
⑤相続土地国庫帰属制度を使う
最後に紹介するのは2023年4月27日からスタートする相続土地国庫帰属制度です。今まで土地は放棄したくても、できないものでしたが、この制度がスタートすると、要件を満たせばいらない土地を国に引き取ってもらえる制度です。
相続放棄では実家のみの放棄はできないと先述しましたが、相続土地国庫帰属制度は実家の土地のみを手放すことが可能です。しかしながら、要件を見る限り、なかなか引き取ってもらうためのハードルは高いと言わざるを得ません。詳細を確認しましょう。
相続土地国庫帰属制度の要件
相続土地国庫帰属制度を利用し、国に引き取ってもらうには次の要件を満たさなくてはなりません。
相続によって取得した人が利用できる
相続で土地を取得した人が利用できる制度です。売買や生前贈与などで取得した人はそもそも利用できません。相続で取得した場合なら、他の相続人と共同で取得した場合、共有者全員で申請するのであれば利用ができます。
建物がある土地はNG
建物がある土地は利用できません。つまり実家を取り壊さなくてはこの制度が利用できません。
賃借権や抵当権が設定された土地はNG
誰かに土地を貸していたり、銀行の担保に入っている土地は利用できません。
地元の人が利用する土地はNG
地元の住民などが通路・墓地・境内地・水路などで利用している土地は利用できません。
土壌汚染のある土地はNG
権利関係に争いがある土地はNG
境界が不明で隣地ともめ事がある土地は利用できません。
上記のような土地はそもそもこの制度を利用できません。さらに次の土地は個別に判断されます。
- 崖のある土地
- 車両や樹木などの残置物がある土地
- 地中に埋設物がある土地
- その他災害・獣害の危険地域など
相続土地国庫帰属制度の費用
相続土地国庫帰属制度を利用するためには費用がかかります。
- 審査手数料土地1筆につき14,000円
- 申請を専門家に依頼する場合は専門家の手数料
- 負担金(10年分の管理費相当額)
審査手数料は土地1筆につき14,000円。審査の結果、国に引き取ってもらうことができなくても、返ってこないお金です。負担金に関しては土地の地目により負担金が異なります。
相続土地国庫帰属制度の申請を代理で行える専門家は、弁護士・司法書士・行政書士になります。制度の名前どおり、土地だけを対象とした制度のため、少なくとも実家の取り壊しが利用の前提になることに注意をしましょう。また取り壊しを行って更地にしたとしても、他の要件をクリアしなければ国庫に帰属されることはありませんし、審査手数料も戻りません。
相続土地国庫帰属制度を利用したいと考える人は、弁護士・司法書士でこの制度に強い人(情報を発信している人)や法務局に事前に相談することをおすすめします。
相続放棄と相続土地国庫帰属制度の比較
相続放棄と相続土地国庫帰属制度の違いを表にまとめました。相続土地国庫帰属制度については、まだスタートしていない制度のため、審査手数料も未発表ですし、どの程度の期間がかかるのかも不明です。
相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 | |
---|---|---|
手続きの期限 | 相続開始を知ってから3ヶ月 | 特に期限なし |
放棄の対象 | 遺産全て | 不要な土地 |
手数料 | 800円+戸籍・住民票等の取得費 | 審査手数料 14,000円(1筆につき) 負担金20万円~ |
申請資格 | 相続人 | 相続人 |
申請先 | 家庭裁判所 | 法務局 |
手続きの難易度 | 〇 | △〈不明) |
相続したくない親の家に関するQ&A
最後に親の家を相続したくない場合のよくある質問にお答えします。
相続人全員が相続放棄をしたら実家はどうなるのか?
最終的には換価され、国庫に納められます。
相続人が全員相続放棄をした場合や、相続人が元々いない場合に、亡くなった人が借金などの負債を残していた場合には、債権者に返済をしなくてはなりません。また特定空き家等に指定された危険な空き家の管理をする必要もあります。
その役目を果たすのは相続財産管理人です。
債権者や市区町村などの利害関係人は相続財産管理人を選んでもらえるよう裁判所に申し立てします。相続財産管理人に選任された弁護士または司法書士などは、故人の残した財産(不動産や株式等)があればそれを換価し、債権者に分配します。
分配後もプラスの財産が残れば、故人の特別縁故者(内縁の妻や夫・故人と特別な関係にあった人をさします)に分配されます。特別縁故者がいない場合は、残った財産は国庫に帰属されます。
換価ができない不動産は換価せず、国庫に帰属させることもあり得ます。
ところで、相続財産管理人の申立てには申立人が予納金を納める必要があり、その額は20〜100万円にのぼります。故人に財産が残されていなければ、予納金を払って申立てをするメリットはないことから、相続財産管理人の選任申立てがされないケースが多いのが実情です。
相続放棄をしたら実家の管理責任から逃れられるのか?
他に相続人がいる場合は相続放棄者は責任を負うことはありません。
しかし、問題は相続人が全員相続放棄をした場合です。
今までの法律上は相続放棄をした人の責任はいつまで続くのか、どんな責任を負うのかが明確ではありませんでした。しかし2023年4月より改正民法が施行されます。
この改正民法によれば、相続放棄の時点で実家を占有している相続放棄者は、相続放棄の時点で実家を占有していれば保存責任があるとしています。その責任は、次の相続人または相続財産管理人に不動産を引き渡すまで続きます。
一方で、相続放棄時に実家を占有していない相続放棄者は、責任を負わないものとされました。
まとめ
実家を相続したくないと考える人が増えたのは、核家族化の影響で自分の家を既に持ち、将来にわたって実家に戻る可能性がない人が増えたため当然なのかもしれません。しかし、相続放棄は全ての遺産を放棄する制度のため慎重に検討する必要があります。
実家を相続したくないという理由だけで、相続放棄を行う前に、相続放棄後の保存責任について知ることは重要です。つまり、実家を占有している場合、相続放棄をしても責任を追い続け、責任から逃れるには相続財産管理人選任のために20〜100万程度の金銭的負担があるということを知る必要があります。
借金などがなく、実家の維持管理等の問題で親の家を保持したくない人は、実家を売り切ることができないのかをまずは確かめてみることも必要でしょう。手間なく早く手放すという観点で買取をおすすめしました。少しでも高く売りたい場合には買取より一般的な仲介で売却することをおすすめします。